状況
Aさんは、夫の普段の様子に違和感を感じたため夫のスマートフォンを確認してみたところ、夫が同僚の女性との間で互いの裸の写真や性行為中の動画を送信し合っているのを見つけ、夫の不倫に気づきました。
そこで、Aさんは、夫が同席する中で女性と対面し不貞行為について問い質したところ、夫と女性のいずれもが不倫の事実を認めた上、女性はAさんに対しAさんの夫とは連絡を取らない旨の約束をしました。
また、その際、Aさんは女性に対し慰謝料の請求を行ったのですが、女性から「支払える金額を検討したいので少し時間が欲しい。」との返事があったため女性からの回答を待つことにしました。
その間に、Aさんは夫とも話合いを行い離婚することに決めたのですが、離婚に向けてAさんが転職活動を行ったり新たに住居を借りる必要があること、また離婚前に子供と夫との思い出を作りたいと考えたことから、離婚の時期を数か月後とした上で、それまでは夫を含め家族全員で同居して生活することとしました。
その後、Aさんが女性からの回答を待っていると、女性から依頼を受けたという弁護士から「女性には連絡せず、弁護士宛に連絡をして欲しい。」との内容の書類が届きました。
また、女性が夫と連絡を取り続けていた上、Aさんと夫が離婚した後に女性と夫が結婚する約束などをしていることも判明しました。
女性の上記対応に強い怒りを覚えたAさんは、慰謝料や接触禁止に関する交渉を当事務所の弁護士にご依頼されました。
弁護士の活動
1 相手方に対する請求
まず、弁護士は、女性側に対し、女性と夫が避妊しておらず妊娠の可能性があった点や、女性がAさんに対し「夫とは連絡を取らない。」旨の約束をしたにもかかわらず連絡を取り続けた上で結婚の約束をした点で今回の不貞行為が極めて悪質であると主張し、慰謝料として300万円を請求しました。
2 相手方の対応
これに対し、相手方からは100万円を長期分割であれば支払可能との回答を行ってきました。
3 その後の経過
その後、弁護士は、女性と夫の不貞行為によりAさんが離婚する予定であることや今回の不貞行為の悪質性を改めて説明した上、相手方が提示する条件を拒否しました。
そして、夫と女性の接触禁止を優先したいというAさんの御意向を踏まえ、弁護士は、女性側に対し、「Aさんと夫は離婚する予定ではあるものの、離婚の予定時期が数か月後である。」、「Aさんは離婚までの間に子供と夫との円満な関係性を育みたいと希望しているため、少なくとも離婚までは夫とは接触しないで欲しい。」旨を説明した上、①離婚の予定時期まで夫と女性が接触しないこと及び②違反があった場合には女性がAさんに対し1回あたり20万円の違約金を支払うことを合意できるのであれば、慰謝料を200万円とした上で和解することが可能との回答を行いました。
その結果、Aさんは夫とは離婚する予定であったものの、離婚の予定時期までの夫と女性の接触禁止(違反行為1回あたり違約金20万円)の合意をした上で慰謝料200万円を獲得することができました。
ポイント
1 配偶者と不貞相手との接触を禁止する内容の合意
夫婦の一方が配偶者の不倫相手に慰謝料請求を行う場合、配偶者と不倫相手が今後接触しないことを条件として和解を成立させることがあります。
このような条件を付することで不倫相手が配偶者に接触しないことを法的な義務とすることが可能ですし、違反があった場合の違約金を定めておくことで接触禁止の合意に一定の実効性を担保することも可能です。
そのため、夫婦が離婚せずに婚姻関係を継続するという場合には、不貞行為を行った配偶者が不倫相手との不倫を継続することを防止すべく、配偶者と不倫相手について接触禁止の合意をしておくことが好ましいといえます。
2 離婚する場合でも上記合意は可能か?
一方、配偶者と離婚する前提として配偶者の不倫相手に慰謝料を請求する場合、離婚する配偶者が不倫相手と接触したり交際を継続することを止めさせる実質的な理由はありません。
実際、配偶者と不倫相手の接触禁止に関する違約金条項について、婚姻関係破綻後について定めた部分は公序良俗(民法第90条)に違反し無効と判断した裁判例が存在します。
東京地判令和2年6月16日(平成31年(ワ)第5707号)
「本件違約金条項は、被告とAとの不貞行為が原告の権利ないし法益を侵害することを前提とするものであるところ、不貞行為時において、既に婚姻関係が破綻していた場合には、それにより原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法益が侵害されたとはいえず、特段の事情のない限り、保護すべき権利又は法益がないというべきである。そうすると、本件違約金条項のうち、原告とAの婚姻関係破綻後について定めた部分は、公序良俗に反し無効と解するのが相当である。」
そのため、接触禁止に関する違約金条項を定める場合、当該条項が有効と判断される可能性が高いものであるかについて十分に検討しておく必要があります。
そこで、本件では違約金条項が無効になる可能性がゼロではないものの、婚姻共同生活の平和の維持という権利または法益を保護すべき理由があると考えることが十分に可能であると考えられる範囲(離婚の予定時期まで)に限定した上で、配偶者と不倫相手の接触禁止及び違反があった場合の違約金の合意を成立させています。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。