状況
Oさんは、妻との婚姻中に別の女性と不倫関係になりました。
不倫関係を続ける中で女性は妊娠したのですが、Oさんと女性が話し合った結果、女性は中絶手術を受け子供をあきらめることにしました。
手術後もOさんと女性は交際を継続していたところ、女性がOさんの妻に対し「Oさんと自身が交際している。Oさんとは離婚してほしい。」と告げたことで、Oさんの妻は不倫の事実を知ることになりました。
このことをきっかけに、Oさんは妻と離婚するとともに女性との交際も解消した一方、女性はOさんの妻に対し慰謝料150万円を支払いました。
その後しばらくして、女性は弁護士に委任した上で、Oさんに対し、交際中のトラブル(DV、意に反する性行為、中絶、ストーカー行為など)を理由に慰謝料として400万円を請求してきました。
また、女性は、自身がOさんの元妻に慰謝料として150万円を支払ったことについて、Oさんの責任がより重いと主張し求償金として105万円(女性が支払った慰謝料の7割)を請求してきました。
女性からの請求への対応に苦慮したOさんは、当事務所の弁護士に慰謝料や求償金の減額等の交渉をご依頼されました。
弁護士の活動
当事務所の弁護士は、まず女性の弁護士に対し、Oさんが女性へDVや意に反する性行為、ストーカー行為などを行っていないこと具体的な根拠に基づいて主張し、慰謝料を支払う義務がないとの回答を行いました。
また、求償金については、むしろ女性の方の内部負担割合の方が高くなる可能性があることを具体的に主張した上、女性がOさんの元妻へ150万円を支払ったことを前提としてもOさんが支払うことができるのは約2分の1に相当する80万円であるとの回答を行いました。
これに対し、女性の弁護士は、女性が警察へ相談した際の記録等を証拠とした上でDV等が存在したことは明らかであちとして、合計250万円が支払われなければ裁判手続への移行を検討する旨の返答をしてきました。
また、女性はOさんの友人に対し、自身の慰謝料請求に協力してくれればお金を渡すなどとして協力者を探し始めました。
女性側の上記の動きに対し、弁護士は、女性がOさんの友人に本件紛争について口外しないように申し入れた上、「慰謝料請求については一切応じられないため、請求を継続するのであれば訴訟提起して欲しい。」との回答を行いました。
その結果、最終的にはOさんの女性に対する賠償義務を否定した上で、女性がOさんの元妻に対し慰謝料を支払った点に関し求償金として80万円を支払うとの内容で和解することができました。
ポイント
1 中絶手術を理由とする慰謝料請求
女性が交際中の男性の子供を妊娠した後に中絶手術をしたという場合、合意に基づく行為により妊娠しているため女性が男性に対し慰謝料を請求することは困難というのが通常です。
しかし、妊娠判明後に男性が女性に対し不誠実な対応を行った場合には慰謝料の支払義務が生じることがあります。
そのため、本件において、仮にOさんが女性と中絶について何ら話合いをしなかった場合などには女性に対する慰謝料を支払う義務が生じた可能性があります。
2 DVを理由とする慰謝料請求に対する反論
病院の診断書や警察への相談記録、体に痣ができた際の写真などを証拠として、DVを理由とする慰謝料請求を受けることがあります。
その場合、DV行為に心当たりがあるのであれば相手に対して真摯に対応する必要がありますが、仮にDV行為に身に覚えがない場合には具体的に反論しなければなりません。
反論に際しては、相手方が提出した証拠を吟味した上で証拠の証明力を争ったり、こちらが保有する証拠に基づいて具体的に反論していくことが重要です。
3 不倫の当事者間の責任割合
不倫は法的には共同不法行為(民法第719条第1項)にあたるところ、不倫を行った複数当事者が被害者(配偶者に不貞行為をされた方)に対し連帯して損害賠償義務を負うことになります。
もっとも、不倫を行った当事者間の責任割合は別途問題となり、自身の責任割合を超えて慰謝料を支払った当事者は、慰謝料を負担していない他方当事者に対し求償金の請求を行うことが可能です。
当事者間の責任割合は不倫の当事者の従前の関係性や不貞行為への積極性などを考慮して判断されますが、通常の不倫の場合、責任割合の傾向としては不倫を行った配偶者側を5~7割程度、不倫相手を3割~5割程度とする裁判例が多いようです。
本件では、Oさんが不倫を行った配偶者であるためOさんの責任割合が女性よりも大きいと判断される可能性が否定できない事案ではありましたが、不倫相手である女性側の行為の悪質性等を具体的に主張していくことで責任割合をおおよそ5割ずつとすることが可能となりました。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。